手塚治虫ばかりがすごいのか
27日のNHKスペシャル「日本とアメリカ 日本アニメvsハリウッド」を興味深く観た。アイデアが枯渇しつつあるハリウッドが日本のアニメやマンガに目を付けているという話はすでに珍しくもないのだが、番組によると現在日本のアニメを原作とする映画(実写、CGアニメなどによる)の制作が7本進行中だという。番組の中では日本人なら誰でも知っている「鉄腕アトム」のフルCGアニメの製作現場を初めて紹介していた。版権を持つ手塚プロとハリウッドの製作会社との間の考え方の違いに焦点を絞り、徹底的にマーケット調査をしたうえでそれをキャラデザインやストーリーにまで反映させ「売れる」作品を作ろうとするハリウッド側と、対して作り手の思いを大事にする日本との違いを見せるという内容だった。また独自の企画で初めからハリウッドのマーケットを狙った「アフロ侍」のGONZOのレポートもありなかなかに面白いモノであった。
ただ、やっぱり「またそこに話を持ってくの?」というのがあった。
日本のアニメが独自の発展を遂げた理由のひとつに作画枚数の制限がある。フルアニメであるディズニーに較べ日本の一般的なTVアニメは1秒当たりの作画枚数が3分の1であるということは良く知られている。そんな「動かない絵」でも面白く見せるための工夫として、止め絵を効果的に使うなどの演出上の工夫や脚本(ストーリー)を重視する日本独特のスタイルを「手塚治虫が考え出した」という説明だ。そして、その手塚のアイデアのおかげで独自の発展をした日本のアニメに今ハリウッドが注目している、かつてアメリカのディズニーに憧れた手塚の思いが遂げられたと言わんばかりだ。これには首をかしげざるを得なかった。ここでも「手塚の神格化」が行われていた。なんでもかんでも「手塚のおかげ」という考え方にはそろそろうんざりする。まあ、そうした方が解りやすいだけなのだろうけれど。
そもそも作画枚数を極端に減らすというのは、手塚が週に1回の30分番組(本編は22分程度)を成功させるために、徹底的な低コスト化を図る必要があったからだ。前例のないことを成功させるために手塚はTV局に対して普通では考えられない制作費でアトムを売り込んだ。そのためコストを抑え、制作効率を上げるためには「動かない絵」にせざるを得なくなった。「ストーリー重視」「演出上の工夫」などは全て、それらを補うための“苦肉の策”だったのだ。そして、それを行ったのは現場スタッフたちである、手塚の指示ではない。
こうした制限が引いては日本のアニメが現在のような進化を遂げた一因になったことは間違いではないだろう。けれども、そのことまでも“手塚の功績”であるという番組の作り方には納得がいかなかった。手塚が安い制作費で作品を売り込んだことが、後にアニメ界の過酷な製作現場を生むことに繋がったというマイナス面を無視して「手塚はスゴい」というイメージだけを植え付けているところはいかにもNHK的ではある。
大体、ディズニー信奉者である手塚が動かない絵を良しととする訳がない。実際、動きの少ないアトムについては相当のジレンマもあったようだ。しかし、この時の手塚にとって大事なことは前人未踏のことを為すことであった。だから絵は犠牲にしても、まず全国のお茶の間に毎週アトムを届けることを優先したのだ。
だから大きな意味において日本のアニメの発展のいくらかは「手塚治虫の功績」である、やはり手塚治虫という存在なしに現在の日本アニメ界を語ることも難しい。ただし「罪」も含まれるが。誰もやろうとしなかったことを成し遂げることで世の中を動かしたことは間違いない。それをもやはり手塚治虫だったから出来たことなのだ。
それにしても、あのCG版アトムのデザインは・・・あれで本当にOKなのだろうか手塚プロは。まるでアトムとコバルトの中間のようなあの中途半端さは・・・オリジナルのアトムの幼さは、アメリカ人には好まれないという市場調査による判断らしいのだ。手塚の作品をハリウッドで映画化すると言うだけでも感慨深いモノはあるし、新しいマーケットを開拓したいという手塚プロの思惑も分かる。けれど、アトムらしさを失ったアトムがアメリカや世界で人気を博したとして、それはアトムの人気と言えるのだろうか。そして天国の手塚治虫は果たして喜ぶのだろうか・・・。
完成作品を観てもいないのにこんなことを書くのもなんなんだけどね。
念のため言っておくが、僕は手塚作品のファンだしアトムも大好きだ
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