
と、いうわけで「めぞん一刻」です。10何年、いや、20年ぶりくらいに全15巻を一気に読み返した。いや〜、やっぱ面白かった。
僕が10代後半から20代前半にかけて最もハマった漫画であり、各巻の奥付を見返してみたら第1巻以外は全て初版本を購入している。「めぞん」は当時創刊したばかりの「ビッグコミック・スピリッツ」の看板連載だったが、僕は連載では読んでおらずおそらくはどこかで評判を聞いて第1巻を購入したのだと思う。その後も連載には目もくれず、単行本が出たらまとめて読んでいた。2巻以降すべて初版を買っていたとは自分でも驚きだが、それだけ楽しみにしていたということなんだろう。
「めぞん」を読み返して改めて感じたのは「幸せなモラトリアム」ということだ。
主人公の五代は苦労ばかり背負い込み、いつもいつも大変な思いをする(本人の責任もあるけど)。でも、彼は大好きな響子さんと一つ屋根の下に暮らしているし、迷惑でおかしな人たちだけどかまってくれる隣人たちがいる。慕ってくれる女の子もいるし、恋敵もいればちゃんと悪友もいる。少なくとも孤独ではない。つまり五代は決して不幸ではなくむしろ幸福なのだ。だから彼が毎日考えていることといえば、どうにかして響子さんと「うまくいく」ことだけだ。それだけを考えられる日々なんてどれだけ幸せであることか。
一方の響子さんは死んだ旦那さんを忘れられないでいるけれど、自分を好いてくれる男が身近に2人もいる。どちらも嫌いではないけど、亡くなった夫へ操を立てる気持ちもあってか、態度をはっきり決められないでずるずると結論を先延ばしにしている(読者には五代の方を好きだと分かるように描いてはいる。特に中盤以降は)。だけど五代や三鷹、そして一刻館の変な住人達に振り回されながらも日々の生活に充実感を持って生きられるようになり、悲しみも薄れてゆく。彼女も、そうした「幸せなモラトリアム」を日々生きている。
恋愛の何が楽しいって、自分が誰かを好きになるということ自体がまず楽しい。そしてその思いを相手にいかにして伝えようかと考えることが楽しい(しんどいことも含めて楽しい)。相手が自分のことをどう思っているのか、探りを入れながら会話したりするのが楽しい。自分の好きな相手が自分に気があるかも知れないと思えるようになり、少しづつお互いの心に触れ合っていくことがまた楽しい。そうやってお互いが本当に好きだと確認できるまでの期間(あるいは決定的にフラれるまでの期間)、ジリジリ、ドキドキしながら色んな事を考えているのが何より楽しいんだと僕は思う。それが「幸せなモラトリアム」ということだ。「めぞん」は15巻に渡って、その「幸せなモラトリアム」を描いているのだと思った。
僕の若い頃に「モラトリアム人間」という言葉が流行ったが、それは、もう一人前の大人にならなければいけないのにいつまでも大人になろうとせずお気楽な身分に甘んじていたがる若い連中のことだ。もちろん否定的な意味で使われていた。「めぞん」もモラトリアムな人たちの物語だ。だからこそいつまでもそうではいられない現実の中で、ある意味ユートピアとも言える物語世界に惹かれたんだと思う。
「めぞん」連載時、僕は主人公の五代とほぼ同世代だったので、けっこう感情移入をして読んでいた(幸いにして僕は浪人もせず就職もすんなり決まったけど)。僕も田舎から東京へ出てきて、風呂なしトイレ共同のアパートに暮らしていたのだが「一刻館」のように美人の管理人もおかしな住人(迷惑なだけの住人はいた)もいはしなかった(当たり前だが)。だけど、少しは住人同士の交流やお付き合いなんかもあるんじゃないかと上京前には思っていたがそんなものは欠片もなかったのである。まあ現実なんておおかたそんなもんだし、あったらあったで煩わしく思っていただけかもしれない。
大学時代は社会的に認められた最後の「モラトリアム」だ。高校時代ほど学校にも勉強にも縛られないし、僕のように親元を離れていたら親からも自由だ。社会的責任もない。毎日の生活はすべて自分次第。何よりも人間関係の自由さは大学時代ならではだった。思えば本当に現実と向き合ったのは就職活動を始めてからのことだった。それまでの時間は本当に気楽だった(当時は4年の夏からが就職活動の本番だった)。いや、それでも当時は当時なりに色々思い悩んで苦しんではいたはずだけど今から思えばそんなことで思い悩んでいられたことが、どれだけ幸せだったのかということを感じないではいられない。結局その頃の僕にとっても最も重要だったのは好きな女の子のことでしかなかった。
「めぞん一刻」は、そんな人生で最もお気楽で幸福だった時代を僕に思い出させてくれる作品なのだ。
ほんの小さな胸の痛みとともに・・・。


当時の「ビッグコミックスピリッツ」新聞広告。こんなもんまで取っておいてたんだ、オレ・・・。

コチラは庭掃除の時は髪を束ねてることが多かったかなと思い、描いてみた髪束ねバージョン。
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